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【完結】レンとレンの恋物語
【完結】レンとレンの恋物語
Author: 栗須帳(くりす・とばり)

001 ファーストキス

last update Last Updated: 2025-11-22 11:00:28

「私……キスしたんだ……」

 * * *

 夢の中にいるようで、頭がふわふわしていた。

 ――胸の鼓動がおさまらない。

 泳いだ後の様に重い体。脱力感が半端ない。

 それなのに足取りは軽やかで、そのまま宙に浮いてしまいそうな。

 不思議な感覚だった。

 赤澤花恋〈あかざわ・かれん〉。高校2年の17歳。

 夏休み前、終業式の今日。

 いつものように幼馴染の同級生、黒木蓮司〈くろき・れんじ〉と寄り道をした。

 子供の頃からずっと一緒だった二人。名前に「レン」が入っている二人は、互いのことを「レン」と呼び合い、その仲睦まじい姿は近所でも有名だった。

 近所にある人気のない神社。

 付き合い始めて半年になる二人は、学校帰りにいつもここに来ていた。

 他愛もない日常の出来事や愚痴を話し、互いの気持ちを共有する。

 とは言え、話すのはいつも恋〈レン〉の方だった。

 無口な蓮〈れん〉は恋の話を聞き、静かに笑ってうなずいていた。

 しかし今日。

 蓮の様子が少し違っていた。

 いつもの様にオチのない話を続ける恋も、その様子に気付き声をかけた。

「ちょっと蓮くん、聞いてる?」

「う、うん、聞いてるよ」

「ほんとに? だったら京ちゃんが何したか言ってみてよ」

「……ごめん、分からない」

「ほらー。もう、どうしちゃったのよ。今日の蓮くん、ちょっと変だよ。もしかして具合でも悪い?」

「そんなことは」

「ほんとに?」

 そう言って蓮の額に手を当てると、少し熱く感じた。

「熱、ある? 帰る?」

 心配そうに蓮の顔を覗き込む。

 その時だった。

 額に当てられた手を蓮がつかみ、そのまま握り締めた。

「……蓮くん?」

 蓮は大きく息を吐くと恋に向き合い、肩に手をやった。

 いつも物静かで穏やかな蓮。

 ずっと想ってきた初恋の相手。

 半年前、泣きそうな顔で告白してくれた、気弱でかわいい幼馴染。

 しかし今の蓮は、何かを決意したような強い視線で恋を見つめていた。

 ――こんな蓮くん、見たことがない。

 ゆっくりと蓮が近付いてくる。その時初めて、恋は何をされるのかを悟った。

 夢にまで見た、蓮とのキス。

 人気のないこの神社に来ていたのも、その為だった。

 いつなんだろう。今日だろうか、明日だろうか。

 ずっと思っていた。

 しかし女の自分から言える訳がない。

 こういうことは男からするものなんだ。そう思い、ずっと待っていた。

 ついに、ついに蓮くんとキス、するんだ……

 恋が静かに目を閉じる。

 蓮の息が間近に迫る。

 そして。

 蓮の唇の感触が伝わってきた。

 その瞬間、恋は全身に電気が走るような感覚を覚えた。

 待ち望んでいた瞬間。

 それなのに心の中には、満足感と同時に「怖い」という気持ちが生まれていた。

 歯がカチカチと音を立てる。

 ――初めての経験って、こんな感じなんだろうか。

 しかしやがて、その感情は静かに消えていった。

「……」

 頬に伝わる一筋の涙。

 それは恋の中に生まれた、満ち足りた幸福感だった。

 ああ、私は幸せだ。

 もう何もいらない。

 私には蓮くんがいる。

 それだけでいい。

 唇が静かに離れる。

 恋がゆっくりと目を開けると、涙のせいで蓮の顔が歪んで見えた。

 その時初めて、自分が泣いていることに気付いた。

「あははっ……ごめんね、私ったら」

 そう言って涙を拭う。

「……ご、ごめん……」

 涙に動揺した蓮が、囁くようにそう言った。

「え? あ、あははっ、何謝ってるのよ。そんなんじゃないから」

 蓮の手を握り、恋が微笑む。

 しかし蓮はいつもの様にうつむくと、小声でもう一度「ごめん……」そう言った。

 * * *

「きゃーっ!」

 枕に顔を埋め、身をよじらせる。

 体を振る度に、腰まである長い髪が揺れる。

 あの時のことを思い返すと、体が燃えるように熱くなった。

 足をばたつかせ、枕に顔を押し付け、何度も「きゃーっ、きゃーっ」と声を上げる。

「……」

 しばらくしてようやく落ち着いた恋は、枕を抱き締めたまま起き上がった。

「蓮くん、蓮くん……」

 蓮とのキスは、想像していた以上に恋の心を乱していた。

 明日から夏休み。

 学校があれば毎日蓮くんと会える。一緒に登校出来る。

 しかし休みになると当然、会う機会は減ってしまう。

 それは嫌だ。

 毎日蓮くんと会いたい。

 私にはもう、蓮くんしかいない。蓮くんと一緒にいたい。

 蓮くんだって、きっとその筈だ。

 そうだ、毎日一緒に宿題をしよう。

 そしてその後で遊びに行く。うん、これなら自然だ。

 そんなことを考えていると、口元が緩んできた。

「ふっ……ふふふっ」

 二人きりの部屋で勉強会。そして勉強が終わったら……

 妄想が止めどなく広がり、恋はその度に枕を抱き締めて声を上げた。

 * * *

「え? 何の音?」

 妄想が広がる恋の耳に、何かを叩く音が聞こえた。

 慌てて枕を置き、耳を澄ませる。

 音は窓の方からしていた。

「……何の音? ここ、二階なんだけど……」

 ゆっくりと立ち上がり、窓の方へと進む。

 そして小さく息を吐くと、勢いよくカーテンを開けた。

「……え?」

 窓の外にいたもの。

 それは白い子猫だった。

「……子猫? どうして子猫がこんな所に……あ、ひょっとしてあなた」

 そう言って窓を開けると、子猫はかわいい鳴き声をあげて部屋に入ってきた。

「やっぱり! あなただったのね」

 頭を撫でると、子猫は嬉しそうにもう一度鳴いた。

「元気になったみたいだね。よかった」

「ありがとう、恋ちゃん」

「いいのよ別に。それよりこんな時間にどうしたの?」

「恋ちゃんにどうしても、お礼がしたくてね」

「お礼だなんて、そんなのいいってば。気にしないでよ」

「そんな訳にはいかないよ。受けた恩はちゃんと返さないとね」

「恩って、ふふっ、おませな子猫ちゃんだね。困った時はお互い様で………………え?」

「どうしたの、恋ちゃん」

「……」

「恋ちゃん? おーい、聞こえてる?」

 恋が目をパチパチさせて子猫を見る。

 そして叫んだ。

「ええええええええっ? 猫が、猫が喋ってるうううううっ!」

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